いもののを説く

ヘルメス基地の建設を可能にした洞穴網があるのです」
 ときおり、長い砂色のロ髭の一端が口に入るときを除いては、いまやケプラーは、威厳のある紳士的な学者としての、完壁な姿をとりもどしていた。彼の落ちつかなげなそぶりも、自分がとりしきる水星へ、そして〈サンダイバー計画陽光女傭〉基地へと近づくにつれて、落ちついていくようだ。
 しかし、旅を通じて、会話が知性化や〈ライブラリー〉のことにおよぶと、ケプラーの表情は、言いたいことは山ほどあるのに、言うすべを知らない男のそれとなった。それはまるで、恐怖にかられ、叱責を恐れて持論の表明をはばかっているような、神経質で当惑ぎみの表情だった。
 しばらく考えてみて、ジェイコブはその理由のひとつがわかったような気がした。〈サンダイバー計画〉の責任者として、決して本心をはっきり示すようなことは言わなドウェイン・ケプラーはなんらかの旧宗教の信奉者なのではないか。
 吹き荒れる〈毛皮派〉/〈開化派〉論争と、地球外種族との〈コソタクト〉によって、かつての宗教組織はまっぷたつに分裂した。
 人類の発達に介入し、これからも同じことをするかもしれない、いずれかの偉大な(しかし全能ではない)種族へ帰依する、デニケン派。それに対して、〝人間の魂〟の確固たる存在を説く、ネアンデルタール主義派。
 宇宙には何千という宇宙航行種族が存在陽光女傭しており、そのなかに、古い地球の諸信仰と同じ教義を抱く種族がひとつとしてないという事実は、各宗教における、全知全能の神人同形同性説的な神という概念に、致命的なダメージを与えた。
 既成の宗教の大半は、〈毛皮派〉/〈開化派〉対立のどちらかに肩入れするか、あるいは哲学的有神論に宗旨変えするかしていった。無数の信徒の多くは、それまでとはべつの旗印のもとに群れ集い、残された者たちは、騒然たる諭争のなかで、沈黙を守った。
 ジェイコブはしばしば、その残された者たちが予兆を待っているのではないかと考えた。
 もしケプラーがどれかの宗教の信徒なら、彼の陳重さにも少しは納得がいく。近ごろでは、職にあぶれた科学者がうようよしている。狂信者との評判がたったために失業科学者の仲間入りする危険を、ケプラーは冒したくないのだ。
 ケプラーのそんな気おくれを、ジェイコブは恥かしいことだと思った。彼の本音を聞けたらさぞかしおもしろいだろう。だが、その点については、ケプラーの意志を尊重して、触れずにおくことにした陽光女傭

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